第七話

「ど、どうなっている?!」

 晴斗が叫んだ。

「何が起こった! 何故、お前達がここにいる?!」

 晴斗が目を見張るのも無理はない。

 彼の目の前に現れたもの――それは、今大会中に命を落としたはずの人たちだったのだから。

 小山田山男、高丸ミサオ、菊川灯。

 遠山銀三郎、銀五郎。

 遠山時雨三郎、李徴。

 半井満子と笑子。

 そして――勇凛悪。

「お前に主役の座は渡さない!」

 笑子が言った。

「フ、フフ、ハハハハハ! 面白い。何匹集まろうと雑魚は雑魚という事を思い知らせてやる!」

 晴斗の身体に光が宿る。

「我は聖帝。時には退くし、媚びるし、省みることだってある! だが、決してめげぬ、しょげぬ、へこたれぬ!」

 晴斗が力を解き放とうとしたその時だった。

 勇凛悪が一歩、前に進み出る。

「あなた、良く聞いて」

「……なんだ」

「もう、こんなことは止めにしましょう。――今から、あなたの心を折ってみせる」

「フハハハ、何をほざくかと思えば! やって見せろ。出来るものなら、な」

 晴斗の答えに、勇凛悪は暫しの間瞑目をした。

 意を決したように息を吐くと、目を見開き、告げる。

 

「今朝、あなたが香りを嗅いで処女のモノだと断定したパンティ。あれは遠山銀三郎のよ」

「…………………………………………………………………………………………………は?」

 

 晴斗の認識が僅かな間、しかし確実に断絶した。

 藍色の柔道着を纏った厳つい男が、彼に歩み寄る。まさしくあの香りを放って――。

 ポキリと、何かが折れる音がした。

「…………………………………………………………………………もうやだ。かえりたい。ねたい」

 聖帝が、めげて、しょげて、へこたれた瞬間だった。

 

 

 

 ――カチリ。

 時計の針が再び回る。

 時間は再び戻される。

 過去が再びやって来る。

 

 

 

 いつもの学校。いつもの校庭。いつもの朝。

「先生、今日も持ってきました!」

 屈託のない笑みを浮かべる生徒達。

これもいつも通り。

 晴斗はカレーを食べていた。

 何故だか妙に疲れている。まだ今日は始まったばかりだというのに。

 歳のせいか、と首を捻りながら再び匙を口へと運ぶ。カレーの美味がすぐにそんな疑惑を拭い去った。

 パク、うん。辛い。

「二一世紀、最高」

 晴斗は呟く。

 いつもの光景が、また始まる。

 

 

 

 

 

【終劇】