第六話

 そこは、白い世界だった。

 上も下も、右も左も、前も後ろも。全てが白い光に包まれた世界。

 そんな世界に『彼女』はいた。

 年の頃は一〇歳程度。華奢な体は可憐よりもむしろ儚いという印象を与える少女だ。

 片倉礼逢。

 銀三郎によって晴斗暗殺の為の糧として使われた少女。

 彼女は、手に持った鏡を見つめる。

 その鏡面が映すのは彼女自身の顔ではなく、南斗学園の校庭だ。

 鏡の中で、三人の男女がうつ伏せになって息絶えていた。

 ……たった一回の“凍時術”。その代償は命だった。

 礼逢が、その手をまるで差し伸べるように前に突き出す。

 呼応するかのように、鏡の中で小さな物体が輝き出した。

 それは懐中時計。時を御す異能の起点。

 人に侵すことのできない、白い世界の主は、その桜色の唇を小さく動かした。

 

『…………………………………………………巻き戻れ』

 

 世界が、流転する。

 

 失われた全てが巻き戻る。