第三回「犯人よ、殺意を抱け!」

 

 先日、石神君から「金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿」のラインスタンプをもらいました。キャラクターのイラストや台詞があまりにもシュールすぎて、どれも使いどころに悩むスタンプばかりなのですが、僕自身はとても気に入っています。

 石神君にはこの場を借りて、あらためて感謝申し上げます。

 

倒叙ミステリブーム到来・・・・・・か?

 さて、最近、巷ではその「犯人たちの事件簿」が大人気のようです(かくいう僕も単行本を買いました)。

 金田一少年の外伝作品と銘打っているだけあって、「犯人たちの事件簿」は完全にギャグマンガですが、これはこれで一種の「倒叙ミステリ」の体裁になっているので、倒叙ファンの僕はたいへん楽しませてもらっています。

以前、近況報告の方でも一度書きましたが、僕はミステリのなかでも、取り分け「倒叙ミステリ」と呼ばれるサブジャンルが大好きです。

捜査陣側だけでなく、犯人側の心理や行動もはっきり描かれるので、より真に迫った緊張感や知的興奮が味わえる――――というのが、その大きな魅力でしょう(犯行の手口は冒頭で明かされるから、結末のトリックがつまらなくてがっかり・・・・・・なんてこともまずないですし)。

 不可解な謎を鮮やかに解き明かす名探偵も、もちろん僕は好きです。そして、それと同じくらい、不可解な謎を生み出してくれる犯人たちも愛しています。

 島田荘司氏の作品に登場する名探偵御手洗潔は、以下のような意見を述べています。

 

「僕はいつも思うんだ。クイズは、作るよりも解く方が何倍もやさしいんだ。作るよりも、解く方が才能を要するなんてパズルはあり得ない。(中略)古今東西、巧妙な犯罪や事件に真の芸術家がいるとすれば、それはホームズやポアロなんてやからじゃなく、その犯罪を計画し、実行した勇気ある犯人たちだよ。それなのに昔から、犯人の尻を追っかけてめいっぱいもたもたしたあげく、やっと謎を解いた連中が天才だ、偉人だともてはやされる。これが道徳配慮でなくてなんだろう」 

                         島田荘司『異邦の騎士』(講談社文庫)より

 

 ミステリの名作に登場するのは、名探偵だけではない。そこには、必ず名犯人も存在している――よくできた本格ミステリを読むたびに、つくづくそう実感します。

 

私的残念な犯人ランキング

ここから先はちょっとした戯れです。

 ミステリに出てくる犯人は、おしなべて称賛できる存在とは限りません。ミステリを読んでいると、ときには、どうしても拍子抜けしてしまったり、「おいおい、さすがにそれはないだろ」と突っ込みを入れたくなるような犯人にも出会います。 

 ここから先、ランキング形式で紹介するのは、僕が思うところの典型的な「ミステリをつまらなくしてしまう、残念な犯人」です。

 

5位 最初から怪しすぎる犯人

 「意外な犯人」は、ミステリの醍醐味のひとつです。それにもかかわらず、探偵や警察はもちろん、ほかの事件関係者やはては読者にまで「あ、こいつ怪しいな」と瞬時に見抜かれてしまう犯人……これは、あまりに残念すぎます。

 

4位 陳腐なトリックを使う犯人 

 犯人たるもの、犯行に及ぶときはオリジナルティあふれるトリックで勝負すべき、というのが僕の意見(というか、願望?)です。針と糸による密室、氷でできたナイフや銃弾など、使い古されたトリックはさすがに使ってほしくないですよね。

 

3位 往生際が悪すぎる犯人

 完璧な証拠を突きつけられたら、潔く「わたしがやりました」と白状する。この姿勢こそ、まさに犯人の美学です。以下は、古畑警部補の台詞です。

 

これまで私が関わってきた多くの犯罪者たち。彼らに共通しているのは、誰一人逮捕の瞬間、悪あがきをしなかったということ。彼らは犯行を認めた後、進んで自供してくれました。誇り高き殺人者。そして、それが私の自慢でもあるのです」                 

               テレビドラマ『古畑任三郎 第38回最も危険なゲーム・後編』より

 

第2位 すぐに自白しちゃう犯人

 このタイプの犯人は、二時間もののサスペンスドラマでよく見かけます。

 探偵や刑事が示した証拠がどんなに弱いものでも、「はい、私がやりました。あの人が憎かったんです」とすぐに犯行を認めてしまう――思わず、「おい、もうちょっと粘れよ」と突っ込みを入れたくなります(しかも、こういう犯人にかぎって動機の供述が長い)。 

 おそらく番組の尺の都合なんでしょうけど……往生際が良すぎるのも考えものです。

 

第1位 犯行前から諦めてしまう犯人

 これは……いわずもがなですね。読者に対する裏切りです。犯人が犯行に及んでくれないのでは、事件が起きず、物語も成立しません。というか、そんなやつはそもそも「犯人」とも呼べないか。